「…捨てていいよ。

もう充分、失敗したんたって
わかったから」


「何で?」


…何で、って。


「トーコが作った
こ〜んな最低最悪な作品。

俺以外
食えるヤツなんて
いないだろ?」


ぼお〜り、ぼりッ。


おおよそ
クロワッサンだとは
思えない音を立てて

セイが
私の愛情を丸飲みする。


「…クロワッサン
作ってくれてたんだ?」

テーブルの上のレシピを
セイが長い指でなぞった。


「…ちょっと
食べたくなったからッ」


セイの為、なんて
言うのが

何故か
気恥ずかしくて


素直になれない。


「俺の誕生日に
もう一度作ってよ」


「…不味いって言うから、嫌」

「不味くたっていいよ」


クロワッサンって
ちいさい頃のやさしい想い出が
蘇ってくるからさ、って

セイがやわらかく笑う。


「……」

セイの本当のママは
クロワッサン作りが
得意なヒトで。


「セイの誕プレは
私が歌う
バースデーソングだって
決まってるからッ」


「……」

私の答えに
セイが今度は苦笑いした。


「もうこんなの
作らないからッ」


…本当はもっと簡単に
セイのママの味に
近づけると思ってた。


「誕生日には
お店の美味しいクロワッサン
買ってきてあげるねッ」

私はゴミ箱に
残りの駄作を
流し入れようとして

セイにその手を
押さえられる。