「トーコってさ。
昆虫モノの擬人化アニメの
見過ぎで
ハチの足は4本だ、って
ずっと長いコト信じてたよな」
「ハチが二足歩行して
歩いてる、って
思い込まなかっただけ
賢い子どもだったと
思うけどッ」
「…ハチの巣に
よく話し掛けてたのは
誰だったっけ?」
「蜂蜜が食べたいって
言ったのは
セイだったと思うけどッ」
「トーコの記憶は
都合よく書き換えられる
便利なモノだな」
「セイがちいさかったから
覚えてないだけだよッ」
「あの日のコトは
よ〜おおっく覚えてるよ」
セイが
DVDを停止させる。
「あのとき
一緒にいたシンスケさんが
ハチに刺されて。
トーコは泣きながら
シンスケさんに
抱きついててさ」
えッ。
「お嫁さんに
なってあげるから
死なないで〜」
セイが
私の声色をマネしてみせた。
あは…。
「…そんなコト
私、言ってたっけ?」
「言ってたねえ」
セイが
レンタルDVDを手に
立ち上がる。
セイってば本当に
くだらないコトまで
リアルに記憶に刻みつけてて
タチが悪いッ。
「セイはもう
DVD見ないの?」
「だってトーコは
さっきから
テレビを空けて欲しくって
俺に絡んできてたんだろ?」
…バレてましたかッ。
セイが自分の部屋に向うのを
確認して
私は隠し持っていた
友達に借りてきたビデオを
再生しようとした。
「ああ、ひとつ
言い忘れてたけど」
「なッ、何でしょうかッ」
セイが廊下から
こっちを見ていてッ。
「その映画。
主人公の精神科医師が
実は自分が死んだコトに
気づいてなかった、って
オチだから」
ってッ。
どうして
オチを先に言うかなああああ。
「そんな意地悪
するくらいなら
好きなだけDVDでも
見てたらよかったじゃないッ」
私はビデオをデッキから
取り出したッ。
「よく言うよ」
「何がッ」
「だって、その映画さ。
家族みんなで劇場で観たの
忘れた、とか?」
えッ。