2018.12.07 その後
薄いベールが
張り巡らされたような
薄曇りの空。
「ホント変な天気だね」
ママに持たされた傘2本で
バッテンマークを作る
私を無視して
セイがどんどん
私を引き離し
駅へ向かって歩いていく。
「ちょっと待ってよ〜」
小走りで
セイの背中に追いつくと
空よりも不機嫌そうな
重い空気に包まれた。
「……」
会社の仕事を
大量に持ち込んでいた
パパの代わりに
古書店へのおつかいを頼まれ
地図が読めない私を案じ
俺もついていく、と
言い出したのは
セイの方だったのに。
そりゃあ
「あら、ふたりでいくなら
私も頼んでいいかしら」
ママから、ついでに、と
ホームセンターでの
買い物リストを渡されたのは
計算外の出来事だったかも
しれないけれどッ
「ママにいい顔して
笑顔でメモを
受け取っていたクセに…」
小声で愚痴ると
セイが道の真ん中で
立ち止まる。
「えッ、いやッ
何か空耳でも
聴こえちゃったかなッ」
両手の傘を持ち上げ
言い訳する私を
避けながら
行きかう人々が
川のように
よどみなく流れていった。
「あれ、お前に似てる」
「え」
セイの視線の先を追うと
そこはちいさな雑貨屋で。
レンガ造りの壁には
サンタクロースとトナカイ
ショーウィンドウには
雪景色が
スプレーされていて
まさに
北欧のクリスマスの家
そのものだ。
黒くて長い
鉄製の取っ手がついた
重そうな木製のドアには
レトロなポスター。
「ねえ、ねえ
今日、12月7日って
クリスマスツリーの日
なんだねッ」
ポスターの文章を指さす
私ごと
ドアをプッシュして
セイが
店の中へと入っていく。
「明治時代に
日本でクリスマスツリーが
初めて飾られた日が
12月7日なんですよ」
サンタクロースのように
恰幅のいい
白い髭の店員さんが
私達に話しかけてきた。
店の真ん中にある
おおきなツリーに
吊るされていた
オーナメントを
セイが手に取ると
「オーナメントには
それぞれに
意味があるんですよ」
たとえば、と
白い髭の店員さんが
セイに向かって
熱心に話し掛けている。
「この赤いボールはね
アダムとイブが食べた
知恵の木の実を象徴する
リンゴで
ベルはイエスキリストの
誕生を知らせるモノ
キャンドルは世を照らす光」
「……」
「そう
まさにキミのようだ!」
セイの背中に向かって
熱く語る店員さんにとって
まさに私は
アウトオブ眼中ッ。
手に取ったオーナメントを
くるると見回しているセイに
値札を探しているのだと
察した店員さんは
「それはアンティークで
売り物じゃナイんだよね」
でも
気にいってくれたのなら
プレゼントするよ、と
姿だけでなく
中身も太っ腹なコトを
アピールするッ。
「サンキュ」
店員さんにまた来るよ、と
セイがそっと耳打ち。
耳に息を吹き掛けられ
どのオーナメントより
真っ赤になって
その場に膝から崩れる
店員さんを置き去りにして
セイが私の肩を抱きながら
素早く店を後にした。
「…いいのかなッ」
セイの歩幅に合わせ
小走りになって
ついていきながら
何度も店を振り返る私に
「連絡先とか名前とか
訊かれたら
面倒臭いからな」
小悪魔が
貰ったオーナメントを
私に見せる。
「似てるだろ?」
「……」
「ぜって〜
トーコに似てる、って!」
「……」
まん丸なオーナメントの柄が
セイには
私の目鼻に見えるらしい。
「家に帰ったら
ツリーの天辺に
これを飾ろう」
セイがオーナメントを
高く掲げてキスをした。
曇り空に
金の装飾がキラリと光る
オレンジの玉。
「あれ、なんか私達
大事なコトを
忘れているような…」
「12月7日って
生パスタの日だから
母さんに買い物でも
頼まれていたんじゃね?」
After Birthday ♪
2018.12.07 その後
≪〜完〜≫
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