2019.12.07 その後
焼き立てクッキーの
甘い香りに誘われるように
外出先から帰宅したセイが
ロングコートを翻し
ダイニングへとやってきた。
「なに作ってんの?」
ダイニングテーブルの上
茶こしを使って
粉砂糖をふるっていた
私の背後から
セイが
私の手元を覗き込む。
「スノーボール?」
粉砂糖の
化粧待ちをしていた
まん丸クッキー達を
オーブン用の取っ手で
ブランドモノの黒皮手袋が
甚振った。
「リリックスさんがねッ
お誕生日のお祝いの
お礼に、って
ハーブを
たくさんくれたんだッ」
私の耳に当たる
冷たい頬っぺた。
今日は駅から
歩いて帰ってきたのかな。
セイのコートに
動物の抜け毛を
探してしまう。
「げ〜〜〜
ハーブなんか
入れちゃってんの〜?」
オーブン用の取っ手を
黒い指先で
ブラブラさせながら
私の耳元で
セイがため息交じりに
不満を垂れた。
「そう言うと思ったから…」
私のコトバを遮るように
ピピピピピ…
ここでオーブンの
本日2度目の
焼き上がりコール音ッ。
「セイの好物の
クリームチーズ味
焼きあがったみたい」
オーブンから取り出した
鉄板の上には
焼き立ての
まんまるクッキーが
行儀よく並んでいる。
「少し冷ましてから
粉砂糖を振るからね」
伸びてきたセイの手を
私が振り払うと
「え〜」
セイがブーブーブーイング。
粉砂糖がかかった
ハーブ入りのクッキーを
袋詰めする私の横で
網の上で
雪のような粉砂糖を
クッキー達が浴びるのを
テーブルの横から
見上げながら
「俺、焦らすのは好きだが
焦らされるのは
趣味じゃねえ…」
セイが恨めしそうに
黒手袋の指先を噛み
引き抜いた。
「そろそろ大丈夫かな」
粉砂糖を振り掛ける
私の手元から
クリームチーズを
生地に練り込んだ
クッキーが
オーブン用の取っ手に
次々とさらわれてゆく。
「ちょっとお!
私の分も
残しておいてよねッ」
「お前のは
リリックスの怪しげな
ハーブ入りのがあるだろう」
セイがクリームチーズ味の
スノーボールを
あっという間に平らげた。
「初めて作ったヤツだから
味見しておきたかったのに」
時間を掛けて
愛情込めて手作りしても
食べるのは一瞬かあ。
「……」
頬を膨らましながら
私はテーブルの上を片付ける。
「口の中、まだ甘いけど
確かめてみる?」
粉砂糖まみれの指先が
今度は私の顎先を掴まえた。
After Birthday ♪
2019.12.07 その後
≪〜完〜≫
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