2008/08/11
【小説】まあるい♪おしり 002
今日は親友のユッキが
彼氏のコージさんを連れて
我が家に遊びにきている。
いつもデートの帰りに
我が家に立ち寄って
御飯を食べて帰るのが
定例になっていて。
「食事代、浮いて
助かるッス」
結婚資金を貯める為
涙ぐましい努力を
ユッキにさせられていた。
「また、私に内緒で
車のタイヤ
履き替えさせるのに
お金使っちゃってて。
もうヤになっちゃう」
と、愚痴りつつ
どこか
しあわせそうだ。
娘も私とふたりで
食事をするときは
おとなしいのに
今日は娘がお気に入りの
コージさんが
いっしょとあって
「うおうお~お~
お~ッおう♪」
いつになくゴキゲンで。
「最近、この子
このフレーズばっか
口ずさんでるのよね」
「何の歌?」
「それが私にも
見当がつかないんだ」
「まり~んずの
応援歌じゃないッスか?」
娘と突っ突き合いながら
コージさんが
話に入ってきた。
「まり~んず???」
「確かプロ野球の
パ・リーグの球団だっけ」
ユッキの知識もアヤフヤだ。
「黒いユニフォームきて
ジャンプしながら
応援するんッスよね~」
「おう!」
娘がコージさんの
手を引いて
ソファーに座わらせて
その横で
コブシを振り上げながら
「うおうお~お~♪」と
さらに激しく飛び跳ねる。
「…どこで覚えたんだろう」
「パ・リーグなんて
野球中継もあんまり
やってないよね」
「やってても
チャンネル合わせないし…」
ウチはジュンニイが
どっちかというと
サッカー派で。
「れっずの応援歌なら
わかるんだけど」
「うお~お~♪」
「プロ野球の応援歌って
泣いてる子どもを
泣きやませる効果があるって
言われてるから
子どものハートを掴む
音の波長があるのかもね」
ユッキが冷静に分析する。
「うおッお~♪」
「でもよりにもよって
何でまり~んずなんだろ。
ウチ、ママが
ライバル球団の
らいおんずのファンなのに」
「おッお~♪」
「じゃあ、実家で
ママさんと
らいおんず戦を
見てたんじゃないっすか?」
「お~お~う、おッ♪」
「だとしたら最悪だ…」
ママはただでさえ
この子のやるコト為すコト
気に入らないコトが
多いというのに。
「お~うおう、お~♪」
…アタマが痛くなってきた。
「お~う、おッお~♪」
「お~う、おッお~♪」
コージさんまでもが
娘に合わせて歌い始めて
ふたり
ハイタッチしながら
娘がますます
調子づく。
「おッ、おッ、お~♪」
「おッ、おッ、お~♪」
ソファーのスプリングが
きしみだした。
「いい加減に…」
「せんかいッッ!!!」
私の声を遮って
娘を怒鳴ったのは
ユッキだった。
「おのれ、ガキだと思って
ヒトのオトコに
馴れ馴れしく
するんじゃないッ!!!」
「……」
「……」
し~ん。
おっきな目を
ぱちくりして
「…おッ、おうッ」
娘がユッキの言い分を
受け入れる…。
いつも
私に注意されても
絶対に言うコトをきかない
この娘が…。
「動物って本能的に
逆らってはいけない相手を
嗅ぎ分けるから」
ジュンニイが電話のむこうで
大笑いしてる。
「ユッキもユッキよ。
3歳児相手に
何むきになってるんだか」
「よく言うよ。
ヒメだって昔
幼稚園児だった
ペイのトコのトムノスケに
ガンたれてたくせに」
ジュンニイが
思い出し笑いした。
「そんなコトしてないもん」
ちょっとだけ
身に覚えはあるけれど。
「パパッ?」
うたたねしていた娘が
私の電話に気づいて
テレビ電話の画面を
覗き込んでくる。
「後で電話
代わってあげるから
ママがお話終わるの
待っててね」
私と電話機の間に
無理矢理ちいさなカラダを
娘がねじ込んでくる。
「…ママの言うコト
聞こえたでしょ?」
「パーパ、あのねッ」
「うん♪」
ふたりして
わたしのコト
眼中に入ってなくて。
「もう寝んねする
時間でしょッ!」
私は電話機本体ごと
娘から奪い取る。
「……」
娘が冷やかに
私を見て
めずらしく
すごすごと引き下がった。
「ヒメ~。
たまにしか
話せないんだからさ~。
ふたりの時間
大切にさせてよ」
…なあにが
ふたりのじかん、よッ。
「私と娘と
どっちが大事ッ!?」
「…そッ、そりゃあ。
ヒメちゃん、でしょう」
テレビ電話の中の
ジュンニイの顔が
ココロなしか引きつっている。
「俺の”一番好き”は
おまえだって
娘の前でもいえるッ!?」
「……」
ジュンニイの顔が
笑ったまま固まった。
「あれ?
電波の受信状態
悪いのかなあ?」
「勘弁してください…」
「お~うッ、おッ、お
お~う、お~♪」
ライバルが楽しそうに
ソファーの上で
飛び跳ねてる。
