2008/08/23
【小説】まあるい♪おしり 004
娘が音楽教室で
ヒト様に噛みついた。
「もう、この子のこの犬歯
引っこ抜いてやりたいッ!!」
「まあまあ。
この子だって反省してるよ」
パパが娘を庇い立てする。
さっきから
おじいちゃんの背中に
じゃれつきながら
「ふふ~ん♪」ってカンジで
こっちを見てる。
「そんなにハンサムな
オトコノコだったの?」
ママが興味津々で
私に耳打ちしてくる。
私はママをキッチンの
隅に手まねきして
「ハンサムなんて
俗な表現が
似合わないくらいよ」
そのオトコノコの
美しさを力説してしまう。
ホントにキレイで
キラキラしてた。
芸能人みたいな
華やかなオーラがあって
エレベーターの
ドアが開いたとき
思わず他のママさん達も
息を飲んでたもん。
『彼』もキレイなオトコノコ
だったけど
雰囲気がまったく
正反対で。
…私ってば何
『彼』と
比べちゃってるんだろう。
自分で自分にツッコんだ。
「でも、そのオトコノコ
そのマンションの
住人とかだと厄介よね」
ママが嫌なコトを言う。
「会う度に
やっぱり
噛みつくのかしらね」
…あり得るだけにコワイ。
「他のママさん達が
何度か見かけたコトが
あるって言ってたけど…」
何だか不安になってきた。
どうしてこの子は
顔がキレイで
若いオトコのヒトにだけ
過剰反応を見せるのか。
「サーカスのクマみたいに
口に拘束具でも
つけようかしら…」
「お歌のおけいこに
行くのに?」
…そうなんだよね。
「やっぱり歯を全部
抜くしかないか」
「2丁目の歯医者さんの
腕がいいらしいわよ」
「おまえ達
何恐ろしいコト
話してるんだ…」
ママと私の
ブラック・ジョークに
パパが震える。
「じっちゃんッ。
年寄りでも食える
ツマミあったぞッ」
空気を読まない娘が
戸棚の中から
柿ぴ~を見つける。
「パパ、ちゃんと
その子が
危ないコトしないように
見ててよねッ」
パパは慌てて
戸棚の引き出しを
階段にしている娘を
抱きとめた。
「知恵はあるのよねえ」
ママがわが家の野生児を見て
苦笑する。
パパはセラーから
シャンパンを取り出して
孫が用意してくれた
柿ぴ~をツマミに
晩酌を始める。
「おっと、そ~っと
つぐんだぞ」
孫にお酌させて
パパの目じりも
すっかり下がっていて。
「情けない顔~」
ママが嫌味を飛ばす。
まったくパパは
孫には弱いんだから。
「ちいさな子どもに
お酌なんかさせて。
ジュンニイが見たら
何て言うか」
「あら、ジュンイチくんは
そんなコトくらい
見て見ぬふりを
してくれるわよ」
…そうかもしれないけれど。
「ジュンイチくん。
婿養子だもん。
それくらい我慢するのは
当たり前でしょ」
って
おい。
ママはときどき
コワイコトを平気で
口にする。
「ジュンニイは
パパにだって
言うべきことは
ちゃんと言ってくれるわよッ」
「アナタが
尻を叩くからでしょ」
ママがからかうように
私の顔を見た。
「尻なんか叩かないよ」
「尻には敷いてるじゃない」
って。
「…そんなコト、ないもんッ」
私とジュンニイの
カンケイは傍から見ると
そう見えるのか…。
「ダンナさまは
ちゃんと立ててるもんね」
「何を立ててるって?」
!!!!!
ママの下ネタジョークは
凄く胎教に悪いと思う!!
お腹の中で
赤ちゃんが激しく
蹴りを入れてくる。
生まれてくる子は
潔癖な子か
下ネタ大好きな子の
どちらかだと思うけど。
血筋から考えても
後者であるコトは
間違いなかった。
ぼおり、ぼり、ぼり。
娘がパパから柿ぴ~の
ピーナッツだけを貰って
自慢の牙を鍛えている。
「パパ!
ちいさい子にピーナッツなんか
あげないで!!
ショック死したら
どうするのッ」
「あらこの子は大丈夫よ。
ピーナッツアレルギーなんて
ないから」
って
「私に黙って
陰でこの子に
ピーナッツなんて
与えててたの!?}
呆れてしまう。
「…夕飯の前に
そんなモノ食べさせて
ゴハン食べなかったら
責任とってよねッ」
「おッ。理屈を変えて
攻撃してきたぞ。
おまえのママは
本当に負けず嫌いだからな」
「…パパ」
今度は私が一度
噛みついてやろうかしら。
