2007/11/15

【小説】himegoto*
『彼』という存在

私は『彼』と関係をもって

それをただ
怠惰に続けていた。


人に言えない
後ろめたい秘密の関係は
私を別の人間にする。


たいして興味がない
オトコノコに

快楽に

身を任せている
汚い、恥ずかしい自分。


その負い目が
自分自身を責め立てる。

 
最初は
単なる好奇心と、同情と。

『彼』の私への
激しい情熱に流された。


私の前で、自分を見失い

泣き、叫び、跪く『彼』の姿に

サディスティックな
自分をみつけた。


いつも友達に保護されている
おとなしい臆病な私は

どこにいって
しまったのだろう。


私自身が知らなかった
私の本質。


それを知っているのは
『彼』だけだ。


私が奔放になれるのは
『彼』の前だけなのだ。


『彼』には
何もかもさらけだせた。


こんなコトをしたら
嫌われるとか

思惑など
ふたりの間にはなかった。


ただ、自然にふるまった。


気も遣わず、遣われるコトなく

ただ快感を
貪りあえばよかった。

 
先のコトは考えない。

相手のコトは気にならない。


無責任で
自分勝手な関係だった。


「小4の夏、8月10日」

「君に初めて逢った日」


ご丁寧に
日付まで覚えてるあたりが
オタクっぽくって

初めてその話を聞いたときは
ちょっとヒイタ。


執念深いというか

実に8年も
私だけを想い続けていた、と
言うではないか。


ごめんなさい。

私はあなたのコトを
知ったのは高3です。


高1と高3と
クラスメイトだったのに

名前も顔も覚えてなかった。


印象の薄かった『彼』


可もなく不可もなく
目立つこともしない。


背は高くもなく
低くもない。


どちらかというと
貧相なカラダつきに
見えていた。


声もちいさめで

「はあ」とか
「さあ」とかしか
しゃべらない。


口下手なのか
恥ずかしがり屋なのか。

ヒトをなめているのか。


クールすぎる…。


そんな『彼』が
私とふたりっきりになると

激情のヒトに変わるのだから

私が愛されてると
天狗になっても

しかたがないと思う。


そもそも
横に眠っている『彼』の
顔を見て

初めてその美形ぶりに
気づいたぐらいで。


私は本当に
『彼』の容姿にすら
興味がなかった。


一緒に手をつないで
街を歩くワケでもない。

誰に紹介するでもなし。


私を解放してくれる存在に
すぎなかったから。


それまで
じっくり見るコトなんて
なかった。


待ち合わせのときも

『彼』は遅れてきては
私の背後から現れる。


『彼』は私に
ふりむく暇をあたえない。


私の手を握り
すたすたと
ホテルの部屋に向かうのだ。



いつも同じホテルの
ティーラウンジで待ち合わせ。


いつも同じ席に
案内されてしまうくらい

ホテルマンにも
顔を覚えられていた。


何も言わなくても
大好きなクッキーと
オリジナルハーブティーが
運ばれてくる。


「ヒトの目があるだろ」

確かに平日に
こんな超高級ホテルに

学生や先生や保護者が
現れる率は
限りなく少ないだろう。


薄暗いホテルの中
万が一、すれ違っても

気づかれないだろう
とは私も思う。


でも

この場に
不釣り合いな制服姿は
充分にヒトの目を
ひいていた。


ホテルのあちらこちらに
『彼』の絵が飾ってある。


「このホテルのオーナーが
『彼』の絵のパトロンだから」

宿泊客がウワサしていた。


私は『彼』が
絵を描いているトコロを
一度も見た記憶がない。


テレビで紹介されていた絵も
ホテルにある絵も

抽象画すぎて
私にはよくわからない。


凡人の理解を超えた絵は

さぞ奇妙な環境で
描き出されているんだろうと
勝手に思いえがいていた。


『彼』は私をまっすぐ見ない。


私を直視したのは

後にも先にも
あのテレビの取材で
机を蹴られたときくらいかも。


かく言う私だって

『彼』のカラダの厚みや重みは
知ってるけれど

いつもその行為のとき

『彼』がなすまま
身を任せてるだけで。


自分でも
つまんないオンナだと思う。


何やってんだろうって。


こんなトコロで
たいして興味もない相手と…。


ユッキやジュンジュンが
知ったら
きっと軽蔑するだろう。


私という人間が
全て否定されても
仕方ない。


誠実だった部分も

一生懸命だったコトも

本当のコトも

みんな疑われて当然なのだ。


わかっているからこそ
知られるワケにはいかない。


だけど

もう後戻りはできない。


ひとつ隠し事をする度に
距離ができる。


言えないことが増える度
孤独を感じ

みんなと一緒に笑っているのに

ひとりだった。


信用を裏切っている、という
負い目が私を苦しめる。


誰にも嫌われたくない。

軽蔑されたくはない。


大切にしてきた友達だからこそ

言えなかった。