2007/11/21

【小説】himegoto*
悦楽の果て

部屋に入ると
​
『彼』は
私の服に手をかける。
​
​
丁寧に後ろから
器用に衣をはがしていく。
​
​
電気も点けない。
​
​
ここまでは
おきまりのパターンだ。
​
​
なのに
​
この日の『彼』は
いつもと違っていた。
​
​
ベッドの上に
靴を履いたまま仰向けになって
​
ただ、天井を見ている。
​
​
『彼』はいつも前髪で
その端正な顔立ちを
かくしていた。
​
​
横で眠る『彼』は
長いまつげが
影をつくって色っぽい。
​
​
『彼』の容姿に
思わず見入ってしまう。
​
​
胸の上に乗せている
両の手の指先には
​
画家としての証が
残っていた。
​
​
『彼』はずっと
身動きもしない。
​
​
初めて『彼』との時間に
気まずさを覚えた。
​
​
「何か飲む?」
​
冷蔵庫を開けてみた。
​
​
たくさんの飲み物。
​
種類の多さに
その部屋のグレードの高さを
感じさせる。
​
​
そう言えば
​
私は『彼』が
食べたり飲んだり
しているのを
​
ほとんど見た記憶がない。
​
​
好みなんて知らない。
​
​
「ミネラルウォーターで
いいのかな?」
​
​
とはいえ
それらしい瓶が3種類もある。
​
​
「ねぇ!」
​
「ねぇってば!」
​
​
3種の瓶を持って
彼に近づいてみた。
​
​
「ねぇ…」
​
​
『彼』の首元を伝う水滴に
息を呑んだ。
​
​
その無防備さに
ワケのわからない
衝動を覚える。
​
​
襟元から覗く素肌に
赤い絵の具。
​
​
そっと開き見ると
​
あちこちに
飛び散っていた。
​
​
裸で絵を
描いていたのだろうか。
​
​
指でこすっても
取れそうにない。
​
​
「……」
​
この衝動はなんなのか。
​
​
触れてみたい。
​
​
そんな気持ちになったのは
初めてだった。
​
​
オンナノコのカラダを見て
​
綺麗だ、と
触りたくなるコトはあっても
​
オトコノコのカラダに
そんな欲求を
持ったコトなどなかった。
​
​
触れ慣れたカラダの
ハズだった。
​
​
知り尽くしたハズの
カラダだった。
​
​
この胸の高鳴りは
なんだろう。
​
​
オンナノコが
オトコノコを陵辱する。
​
​
イケナイコトだと
​
自分の中で
ブレーキをかけようと
すればする程
​
深みにはまっていく
自分がいた。
​
​
私は好きでもない
オトコノコを
オモチャにしようと
しているのだ。
​
​
相手の同意も得ずに
​
無防備な『彼』を
襲おうとしている。
​
​
綺麗なアーチをえがく
『彼』の眉を
​
唇でなぞってみた。
​
​
いつもは
ぐっと結んだままの
『彼』の口元がゆるんで
​
すきだらけだ。
​
​
私は初めて自分から
その無防備な唇を求め
​
少し乾燥したその表面に
軽く触れるか
触れないくらいに
​
自分の唇を近づけてみた。
​
​
自分が何をしているか
わかっている。
​
​
わかっているからこそ
興奮した。
​
​
自分の舌でなぞってみる。
​
​
唇の渇きを確認して
​
『彼』の中に
イッキに押し入れていった。
​
​
相手の体の中に
ねじ込む快感は
​
私の中の動物を呼び覚ます。
​
​
いつもは
受け入れるだけだった私の
こんな姿を見たら
​
『彼』はどう思うだろうか。
​
​
そう考えただけでも
イケナイコトをしている自分に
​
昂揚した。
​
​
制服のシャツのボタンを
外していく。
​
​
その肌はしっとりと
吸い付くようだった。
​
​
きめの細かい肌に
似合わない胸の筋肉。
​
​
絵ばかり描いている
インドアなイメージしか
なかった
​
よく知っているハズの
『彼』のカラダ。
​
​
初めていとおしく感じた。
​
​
自分のペースで
自分の主導で
​
進めることの快感。
​
​
与えられるときより
与えているときの方が
​
愛情を強く感じるから
不思議だ。
​
​
『彼』に対する後ろめたさは
​
愛情の芽生えによって
変質していく。
​
​
『彼』の全てを知りたい、と
初めて思った。
​
​
指についている絵の具の赤に
『彼』の好む色を想像する。
​
​
『彼』の右手を取り
​
その指を口に含んだ。
​
​
その瞬間
​
『彼』は
私を自分に引き寄せ
​
組み敷いて
​
強い力!!
​
制服のブラウスを
引きちぎらんばかりの勢いで
脱がされる。
​
​
「痛い…ッ!」
​
​
私の訴えなど
『彼』の耳には入らない。
​
​
こんなコトは初めてだった。
​
​
「スカート
シワになっちゃうから!」
​
​
私の訴えなどお構いなしで
​
『彼』はスカートの中から
下着を片足だけ引き抜く。
​
​
いつもと違う
『彼』の荒々しさに
​
私は動揺し
​
快感に感涙していた。
​
​
なのに
​
『彼』は唐突に
私に別れをきりだした。
​
​
私は過去にないくらい
『彼』の指使いに
感じていたというのに…!
​
​
「ずるい…ッ!」
​
そういうのがやっとだった。
​
​
私は
快感の渦に堕ちていく。
​
​
『彼』は私の反応に
無関心なハズだった。
​
​
声もあげず
シラけた表情を見せる私に
​
一途に尽くしてくれていた。
​
​
それは『彼』が
私に夢中だからで
​
いつか自分を
好きになって欲しいという
​
『彼』の願いが
そうさせたもので。
​
​
痛がったら
すぐにやめてくれたし
​
じっくり時間を
かけてくれていた。
​
​
私なりに
その気持ちには
応えてきたつもり、だった。
​
​
初めてのときは
流れと好奇心で、と
言い訳できた。
​
​
それが2回、3回と
重ねられることによって
​
私は逃げ場を
なくしてきたワケで。
​
​
私をこんな風にしておいて!
​
​
私があなたに興味と愛情を
認識したとたんに
​
この仕打ち!?
​
​
別れ話に呆然として
​
窓辺のチェアの上で
まるくなっていた私を
​
『彼』は目で
デッサンしていたに違いない。