2007/12/17

【小説】himegoto*
ときめき

相撲なんか興味がない。

力士の顔と名前も一致しない。


でも。

例のごとく
みんなに押し切られる形で
今日の日を迎えてしまった。


友達のお兄さん。

親友のオススメ。

安心。安全。やすらか。


駅前で待ち合わせて

おひさまの下を
ふたりで歩く。


おそらく
ごくフツウの、標準的な
デートパターン。


桝席という特別席に
ふたりで座った。


入り口でお土産まで
貰ったもんだから

席はキツキツ。


なれない正座に
足が悲鳴をあげている。


足がくずせない。


ジュンニイの
相撲のおもしろ話も
アタマの中を素通りして。


「……」

ワンピースなんか
着てくるんじゃなかった。


つん!

「!!!!!」

ふいに足をつつかれて

声も出ない。


「しびれきらすの
ちょい早すぎだよ」

ジュンニイが
私の失態に大笑い。


「何か飲みに行こうかと
思うんだけど」

私をひとり残して
席を離れようとする
このオトコの

ジャケットの裾を掴んだ。


「連れ出して欲しい?」
「欲しい!!」

「お願いしますは?」


ヒトの弱みにつけこんで…!


「…がいします」
「え?」

「お願いします!」


「よろしい!」

そう言うや否かで

私を自分の肩の上に
軽々と担ぎ上げる。


「俺の話に
うわの空してた罰だ!」


周囲からの視線を
全身に感じ

羞恥に身が縮むとは

まさにこのコト。


「暴れるな~。
落っことすぞ~」


なんて上機嫌な。


すれ違う観客に冷やかされ

ますますテンションが
あがってるようだった。


警備のお姉さんに
目で助けを訴えてみたけれど

見ていないふりを
決め込まれ…。


「最後の大勝負だけ
観れればいいでしょ?」

「え」


ジュンニイはそのまま
国技館を後にする。


「この近所にさ。
いい店あるんだよ」


ジュンニイが独立して
初めて手がけた仕事だという
そのお店。


店長さんが
肩にかつがれてる私を見て

「まあ!
どこで捕獲してきたの?」

とぼけた反応。


ミッド・センチュリーな内装は
こだわりのライトが妖しい。


ジュースの入ってる
コップからして
非日常しすぎている。


「……」

ジュンニイって
こういう趣味だったっけ?


「ここの店長とは
趣味が合わなくてさ」

私の心を見透かしたかのように
言い訳しながら

ジュンニイは
私を肩から下ろした。


「クライアントの意向と
時流のすり合せ作業。

それが俺の仕事」


カッコつけて
語っているけれど

空間プロデューサーって
インテリア・デザイナーと
どこが違うんだろう。


怪しい職業だ…。


ジュンニイはホント
ひとりでよくしゃべる。


こうしてじっくり
あらためて見ると

目元とか
ジュンジュンに似てるなあ。


親しみを感じてしまう。


「ヒメちゃんてさあ」

「え?」

「ホントは相撲
興味ないでしょ」


「うん。実は全然興味ない」

ジュンニイって
ヒトを正直にさせる

不思議な雰囲気がある。


「実は俺も」

「ウソ!
桝席であれだけ相撲の話を…」


「一夜付漬けで覚えました」

ジュンニイは
いたずらっ子のように
ニヤリ、と笑った。


「俺達、相性いいよね?」

「は?」

「俺達、本当に
つきあっちゃおうか」


ジュンニイが私を見ている。


「…冗談ばっかり」


「俺、冗談は
ときどきしか言わないよ」

「言ってるじゃない!」


ジュンニイのボケに
ツッコミを入れた
つもりだったのに

ジュンニイは
そのまま、黙ってしまった。


気まずい沈黙を嫌うように

「出よっか」

ジュンニイが立ち上がる。


「ジュンニイ!」

私はジュンニイの後を
小走りに追いかけた。


「ジュンニイってば!」


何回、名前を呼んだだろう。


歩道橋を降りる
ジュンニイの腕を

やっとの思いで捕まえる。


振り向いたジュンニイは
階段の上にいた私を
引き寄せた。


「好きだ」

「……」


「冗談じゃないから」

「……」


「つきあおう」

「……」


「返事は?」


ジュンニイに
真っ直ぐに見つめられて

私はどうしていいか
わからなくなる。


「どうして?」


「え?」

「何で私なの?」


自分でも
意地悪な質問をしている
と思った。


普段たくさんの
コンプレックスを
かかえていると

こういう機会でそれが出る。


「私のどこが好き?」

「全部」


「信じられない。そういうの」


我ながら滅茶苦茶だ。


ずうずうしすぎだった。


「具体的なパーツに
惚れた訳じゃないから」

強く手を握られる。


「ふりほどいてくれてもいいよ」

握っていた手を
自分の顔の傍に寄せ

「俺、こういうマジな場面って
苦手だから2回は言えない」

まっすぐ私を見ていた視線は
チカラなく下に落ちた。


「だから流さないでほしい」


その手はあたたかくて。

力強くて。


「うん」

握り返さずにはいれなかった。


「ホント?」

ジュンニイが
真っ赤になった顔をあげる。


「…よろしくお願いします」

「おっしゃあああああ!!!!!」


ジュンニイは私との指を
深く組み替え

「行こう!
大一番が始まる!」

満面の笑顔で駆け出した。


翌日の教室で
クラスメイト達に囲まれる。


「見ちゃったぞ~」

大相撲が
テレビで全国放送されている
なんて

知らなかった。


「いい雰囲気だったじゃない」


私とジュンニイは
イッキに公認のカンケイへ。


次の約束がメールで入る。


「ハートマークつけてあげなよ」
「もっと!」
「まだまだ、愛が足りんぞ」

ユッキとジュンジュンに
のせられて

恥ずかしいくらい
ハートマークでいっぱいの
メールを送信。


ジュンニイからの返信メールの
《照れッ》の文字に

「オヤジ~~~」

みんなが笑った。


「来週はデートしないんだ?」

「今日から北海道なんだって」

「アニキ、ああ見えて
けっこう忙しいヒトなんだよ」


自分の事務所といっても
10人そこそこしか
スタッフがいないのだ、と
ジュンジュンは言う。


「贅沢させてやれないかも
しれないけれど」

おいおいおいと泣きマネをする
ジュンジュンのくさい芝居に

ユッキが大ウケ。


「ヒメには
アニキがお似合いだよ!

絶対に、絶対に、似合ってる!」


ジュンジュンが
何度も何度も念を押した。


ジュンニイから
1日に何度もメールが入る。


ちょっと前までは
こんな日々が来るなんて
思いもしなかった。


長かった夏休みの1ヶ月間が
ウソのようだ。


バイトも色々入れてみた。


ジュンジュンの部活の
手伝いに行ったり。

ママとショッピングしたり。

パパにお弁当作ったり。

大掃除して。

庭を大改造したりして。


『彼』のコトを
思い出す暇もないくらい

毎日、体力を使い果たしては
泥のように眠る毎日
だったのに。