2007/12/24

【小説】himegoto*
しあわせの実感

「大相撲の桝席って
高いんでしょ?」
​
「あ、ああ。あれね」
「やっぱり、自分の分、払う」
​
​
ジュンニイには
遠慮なくモノを言える。
​
​
「知り合いに
安く譲って貰ったから」
​
「でも、金欠なんじゃあ」
​
​
「ったく
何、吹き込んでくれるんだ
あの妹は~」
​
ジュンニイが
私の財布を覗き込み
​
一万円札を引き抜いてみせた。
​
​
「桝席って
これ5枚はいるんだぞ」
​
​
「ウソ!?」
​
「うっそ」
​
​
からかったり
からかわれたり。
​
​
ジュンニイといると
自然に笑顔になってしまう。
​
​
「では、はい!
出張のお土産をば!」
​
​
私の前に、木彫りの熊。
​
​
「……」
​
本当に売ってるんだね。
​
​
手に取って観察すると
熊の背中に扉がついていて
​
「?」
​
扉を押し開けると
​
「……」
​
中から指輪が顔をみせた。
​
​
「…これって?」
​
「サイズは勘だから」
​
​
リアクションに困る
私にかまわず
​
ジュンニイは
私の左手の薬指に
​
それをはめる。
​
​
「……」
​
…ぴったりだった。
​
​
「運命だね」
​
私の左手を両手で覆い
​
「神様も俺達を
後押ししてくれている」
​
ジュンニイが微笑んだ。
​
​
でも
​
「案外太い指だったね」
​
は、ひと言多い。
​
​
私が勢いに任せて
その頭頂部にチョップを
入れると
​
ジュンニイの顔面は
正面のケーキの中に
​
見事に沈んだ。
​
​
慌てふためき
​
ナプキンで
ジュンニイの顔を
拭こうとして
​
テーブルの上のモノが
いっせいに大移動する。
​
​
ガッシャーン!
​
​
ジュンニイが
生クリームだらけの顔で
大爆笑した。
​
​
付き合うのが
運命だったのか。
​
​
その指輪は
私の指にそのまま
自然と納まってしまった。
​
​
彫り物の熊は
私の部屋の住人と
なっている。
​
​
窓際のいちばん
日当たりのいいトコロ。
​
​
ずうずうしいのは
贈り主ゆずりなのか。
​
​
部屋の中でひときわ
存在感をしめしている。
​
​
私の中のジュンニイのように
​
ほのぼの。
​
あったかい。
​
​
今日もいつものように
明日のデートの約束を
メールで確認。
​
​
博物館に
王家の秘宝展を
観に行く予定。
​
​
チケットはママに貰った。
​
​
ママはジュンニイのコトを
小さい頃から知っている。
​
​
ノリの軽い
ジュンニイとの交際を
てっきり反対されると
思ってたら
​
「でかした」と喜ばれた。
​
​
確かに昔から
ジュンニイはオトナ受け
よかったもんなあ。
​
​
でも。心配じゃないのかなあ。
​
一回りも年上なんだけど。
​
​
あしたのデート
何着て行こうか。
​
あしたは、クリスマスイブ。
​
​
なんかちょっと
しあわせだ、私。
​
​
街はクリスマスの
イルミネーションで
最高潮だった。
​
​
私達も素敵な恋人達という
景色の一部に
なっているのかな。
​
​
目に映るモノ全てが
綺麗に見える。
​
​
手をつないで
​
秘宝展の展示物に
ツッコミを入れてまわる
恋人なんて。
​
​
立像のスカートの
ナカミを覗き込む
ジュンニイに
​
「スケベ」
​
両のほっぺをひっぱってやる。
​
​
「にゃははははは」
​
何でもおもしろがれる。
​
​
いつでも
ポジティブ・シンキング。
​
毎日がレッツ・エンジョイ。
​
​
そんなジュンニイに
感化されてる自分が好き、かも。
​
​
「顔がくずれるだろ~」
​
年齢差は
あんまり感じない、かな。
​
​
ジュンニイの腕に
甘えてしがみつく。
​
​
「ママがね。ウチで今夜
夕飯どうですかって」
​
「え?」
​
​
「今日、この後あいてる?」
​
​
「ええええええええ!?」
​
​
…何?
​
このリアクション。
​
​
ジュンニイの
思いっきりアセってる様子に
​
何だか
すごくがっかりした。
​
​
「あ、別に無理ならいいけど」
​
と、言いつつ
​
ちょっとショックかな。
​
​
親に会いたがらない、って
​
公認されるつもりはナイって
意思表示?
​
​
私は左手の指輪を撫でる。
​
​
「俺、スーツじゃないけど
大丈夫かな」
​
​
は?
​
​
「娘さんをくださいじゃ
ないんだから」
​
持っていたバックで
ジュンニイの背中に
ツッコミを入れようとして
​
後頭部にクリーンヒット。
​
​
ジュンニイはうつ向いたまま
​
深い溜息をひとつ、ついた。
​
​
「…俺にとっては
ほぼ同じニュアンスだ」
​
​
「え」
​
​
「結婚を前提に
お付き合いさせて
貰ってるんだから」
​
​
顔から火が出るかと思った。
​
​
「俺はオトナなんだから
当たり前だろ?」
​
​
当たり前じゃ
ないいいいいい!!!!!
​
​
危うく秘宝展の展示物を
倒してしまうトコロだった。
​
​
秘宝展の警備員室に
連行されるも
​
警備員さんの説教が
右から左へと素通りしていく。
​
​
ふと、気づくと
​
どんなやりとりがあったのか
ジュンニイが警備員さんと
すっかり意気投合していて
​
放免されて
廊下に出された。
​
​
ふたりっきりになったとたん
お互い意識しすぎて
​
何もコトバが出ない。
​
​
私達が会話のキッカケを
探していると
​
「ジュン!」
​
ガタイのいい外国人が
奥の扉からこちらに向かって
声をかけてきた。
​
​
「ミスター・スミス!」
​
​
ジュンニイは親しげに
その外国人と抱き合い
​
ジュンニイから
以前、仕事をしたことがある
画商だ、と紹介される。
​
​
博物館に併設されている
美術館で来年開かれる
個展の打ち合わせに
来ていたのだと言う
​
このオジサン
​
「……」
​
さっきから
​
私のカラダを上から下まで
なめるように見ていて
​
気持ちが悪かった。
​
​
「ヒメと
どこかであったコトが
ある気がする
​
って言ってるんだけど」
​
​
「…私、知らない」
​
その視線から逃げるように
私はジュンニイの
後ろに隠れる。
​
​
私の気持ちを察して
​
「行こっか」
​
ジュンニイが
私の手を強く握り
​
「ヒメママが手料理作って
待っててくれてるんだった」
​
ミスターへの挨拶も
そこそこに
​
私の背中を押し出し
歩き始めた。
​
​
「ママ、ハンバーグを作る
って言ってた」
​
「ヒメママのハンバーグ
美味いんだよなあ」
​
​
その意外なセリフに
私は思わず顔を上げる。
​
​
「覚えてない?
​
俺よく食べに
行ってたんだけどなあ」
​
​
覚えてない…。
​
​
ジュンジュンが聞いたら
また?、って呆れられそうだ。
​
​
「受験のときなんか
弁当作って貰ったし」
​
​
ママってば
ジュンニイのコト
​
物凄く気に入ってたんじゃ
ないか!
​
​
足元に視線を落とし
早足になる私に
​
ジュンニイの足が止まる。
​
​
「ジュンニイ?」
​
手をつないだまま
振り返ると
​
ジュンニイの唇が
重なってきた。
​
​
「あ…」
​
​
照れるくらい
何気ないキスをして
​
ジュンニイは再び
私の手を引いて歩き出す。
​
​
ふたりのファースト・キス。
​
​
「……」
​
あたたかい手に
ジュンニイの愛情を感じ
​
まさにしあわせの絶頂だった。
​
​
このしあわせの瞬間が
一生続け、と
​
願わずにはいられない。
​
​
なのに。
​
​
痛いくらいの視線を
背中にあびて
​
私は振り返ってしまった。
​
​
そこには
​
忘れたはずの
​
『彼』が立っていた。