2007/10/17

【小説】himegoto*
裏切りの日々

時間が立つごとに
私のイライラと後悔は
どんどん膨らんでいく
ばかりだった。
​
​
私のカラダは
『彼』の指の動きを
鮮明に記憶していて。
​
私のアタマを支配していく。
​
​
『彼』のコトなんて
好きじゃないと思ってた。
​
​
『彼』のコトだって
何も知らない。
​
​
初めて『彼』の存在を
意識したたのは
​
『彼』が大きな絵画展で
最年少受賞したと
学校中で騒ぎになったとき。
​
​
テレビカメラが
教室に入ってきて
​
ライトの中
場違いに
うつむいたままの『彼』。
​
​
そのギャップに
笑いを我慢できなくなって
NGをだして
しまったのが私、だ。
​
​
教室のみんなも
緊張がとけたのか
​
つられ笑い。
​
​
「あ、いいね~。そう!」
​
「クラスメイトの皆も
その笑顔で」
​
「撮影協力よろしくね~」
​
テレビの取材クルーの
おにいさんのホローに
救われたハズ、だった。
​
​
なのに。
​
『彼』は私の前に
仁王立ちして
​
私の隣にあった机を
思いっきり蹴飛ばして
​
そして
​
そのまま『彼』は
教室から出て行ってしまった。
​
​
教室が静まりかえる。
​
​
「感じ悪~い!」
​
おおきな声で
『彼』の行動を非難したのは
​
親友のユッキだった。
​
​
「日頃、存在感ゼロのくせに。
こ~ゆ~ときだけ威圧感!?
​
ホンット、あの前髪
うっとうしい!
​
絵の具つけて
筆にしてんじゃないの?」
​
ユッキの悪口がとまらない。
​
​
「だったら
もっと毛先を整えなきゃ」
​
おどけてみせたのは
ジュンジュンだ。
​
​
気配り上手な私の幼なじみ。
​
​
このふたりには
いつも救われている。
​
​
言いたいことが言えず
やりたいことができない
臆病な私を
​
助けてくれる。
​
​
何でも相談してきた。
何でも言える相手だ。
​
​
​
これまでも。
​
そしてこれからも…。
​
​
そう思っていた。
​
​
なのに。
​
今の私は
そんな彼女達にさえ
​
言えない秘密を
持ってしまった。
​
​
ユッキは
中2のときに
クラスメイトになって、
仲良くなった。
​
​
勉強もできて、理知的。
でも、かなりの毒舌で
潔癖な性格だ。
​
​
堅物にみえて
高校に入ったとたん
彼氏をつくってしまった
シッカリ者。
​
​
自分の中で
きちんと将来の設計が
できている。
​
​
何事にもちゃんと
順番を守って
進めていくのが身上だ。
​
​
間違っても
快感や誘惑に負けるような
人間ではない。
​
​
むしろ
そういう人間を軽蔑している。
​
​
「結婚して
もしダンナが浮気したら
ダンナを刺して私も死ぬ!」
​
そう公言してはばからない。
​
​
私だって『彼』と
付き合うようになるまでは
同じ心持ちだった。
​
​
遊びで抱き合うなんて
汚いと思ってたし
​
今でもそう思ってる。
​
​
ユッキが最初に声を
かけてくれたのは
席替えのとき。
​
​
自分の席が
仲良しのコと離れたから
席を交換しろ、と
迫られていた私を
​
助けてくれた。
​
​
ユッキが間に
入ってくれなければ
​
私が勝手に席を替わった、と
先生にひどく
叱られていただろう。
​
​
ユッキは
筋が通らないコトが嫌いで
​
席替えの騒動のときは
​
私の為に
自分の正義の為に
​
そのコと大喧嘩して。
​
​
「だって、ヒメが
お人よしすぎて
​
見てられなかったよ!」
​
​
『ヒメ』というのは
私の呼び名だ。
​
​
名字から
二文字をとっただけの
単純なもので
​
けっして
お姫様みたい
だからではナイ。
​
​
色は白いけど
背は高いほうだ。
​
​
間違っても
ひらひらの
ロリータファッションは
似合わない。
​
​
こんな私を
ずっと好きだったと
言ってくれていた『彼』
​
​
どこがよかったんだろう。
​
​
話したコトもないオンナノコを
好きになって
​
想い続けるのに
理由はいらないのだろうか。
​
​
『彼』の気持ちを
推し量ろうとすればする程
​
疑問符ばかりが
アタマをめぐる。
​
​
『彼』との関係に
真剣に向き合うコトなんて
なかった。
​
​
理屈を求めだすと
私という人間の脆弱さが
浮き彫りになる。 
​
​
深く考えないコト。
​
それは
自分を傷つけない為の
防衛本能なのかもしれない。
​
​
私はけっして
お人よしではない。
​
ただ押しの強い人間に
押し切られてしまう
だけなのだ。
​
​
『彼』との関係の始まりも
そうだった。
​
​
強引に迫られると
NOといえない。
​
でも
そんな自分の優柔不断さを
必死で隠してきた。
​
​
ユッキは
そんな私の欠点を
長所として解釈してくれる。
​
​
彼女の前では
理想の人間でいられた。
​
​
ジュンジュンとは
幼稚園の頃からの腐れ縁だ。
​
​
フレンドリーな彼女の周りには
男女問わず
いつも笑顔があふれている。
​
​
チアリーダー部でも大活躍。
ファンも多い。
​
​
初恋は小学生のときの
同い年のオトコノコ。
​
​
「他のオンナノコに夢中で」
​
ふりむいて
貰えなかったらしい。
​
​
それも
高1のときになって
やっと教えてもらった。
​
​
彼女がそんな恋を
していたなんて
気づきもしなかった。
​
​
そのときの経験が
彼女を恋に臆病にしている。
​
​
​
そのオトコノコも
​
1日つきあっただけで
相手のオンナノコにキスして
​
捨てられたそうだ。
​
​
「たいして好きでもない人と」
​
つきあうなんて
信じられない、と
​
ジュンジュンは吐き捨てる。
​
​
たくさんのオトコノコから
告白されては
交際を断り続けている
​
どこまでも
誠実なオンナノコだ。
​
​
相手を深く知る為に
付き合ってみる
​
なんて発想はどこにもない。
​
​
陽気にみえて
心に傷をたくさん
かかえていた。
​
​
人に弱みを見せるのが嫌いで
​
なかなか腹の中を
見せないのに
​
「ヒメだから話せる」
​
私を信用してくれている。
​
​
私は口だけは堅いほうだ。
​
他人の秘密は
けっして洩らさない。
​
​
他人の秘密だけでなく
自分の秘密もだけど。
​
​
他人の秘密を黙っていても
苦しくはない。
​
​
でも、自分の秘密は
苦しすぎる。
​
​
言ってしまって
楽になる秘密も
あるんだろうけど
​
私の秘密はその逆だ。
​
​
​
バレたら全てを失うだろう。
​
​
何の言い訳もできない。
どんな申し開きも思いつかない。
​
説明する場も与えては
貰えないかもしれない。
​
​
親友が生理的に
拒絶するようなオンナに
なりさがっているのだ。
​
​
愛してもいない『彼』と
やましいことをした
舌の根も乾かないうちに
​
私は彼女の心を癒し
信用を得て
​
彼女にとって
理想の親友を演じる。
​
​
それは私が彼女を
大切に思っているからで
​
彼女を傷つけたくない
という気持ちに
​
ウソはなかった。