2007/12/25

【小説】himegoto*
開かれた記憶

立ち尽くす私に
気づかないふりをして

ミスター・スミスと
話し込んでいる。


懐かしい声。
英語しゃべってるの
初めて聞いた。


そう言えば
帰国子女だったっけ。


制服姿じゃない
『彼』を見るのは
初めてだ。


パーカーを深くかぶっていて

スポーツテイストなんだけど
仕立てのよさが
ブランドモノっぽい。


オフホワイトなんて着るんだ。

イメージじゃない。


ポケットに
両手を突っ込んだまま

面倒くさそうに
話してるトコロは

相変わらずで。


まるでそこだけ
時間が止まったようだった。


なじってやりたいのか

抱きしめたいのか

自分が何をしたいのか
わからない。


ただ、『彼』を見つめるのが
精一杯だった。


「ヒメ?」


ジュンニイが後ろを
振り向こうとする。


私はジュンニイの腕を取り

「すっかり遅く
なっちゃったね!」

取り繕って

その場から

逃げた。


彼氏を迎えての
初めての両親との食卓
だというのに

『彼』への複雑な気持ちを
抱えたまま

私はどこかうわの空だった。


「ホント、覚えてないの?」

ママからふいに話をふられ

我に戻る。


何故だか、食卓の話題は

私が小学生のときに
一晩、行方不明になった
昔話になっていて。


「あのときはホント
生きた心地がしなかったわ」

ママが大袈裟に胸を押さえた。


「ジュンイチくんがこの子を
見つけてくれなかったら」


ああ、そうか。

あのとき私を発見して
連れ帰ってくれたの

ジュンニイだったっけ。


「……」

こんな大事件のコトまで
記憶から抜けてしまっている
なんて

我ながら
恩知らずも甚だしい…。


「ジュンイチくんは本当に
昔から頼りになったもの」


どうやらママは
ジュンニイのコトを
パパに売り込もうとしている
らしい。


「あの廃墟
まだ残っているって
いうじゃないか。

役所ってのは…」


パパは
ママのミエミエの意図に
警戒しまくっていた。


ジュンニイは
そんなパパのコップに
ビールを継ぎ足そうとして

「いいから
君も呑みたまえ!」

パパにお酒を強要される。


…ジュンニイが
お酒を呑んでいるトコロ
初めて見たな。


いつも車だったんで
呑まないのだ、と
勝手に思っていたけれど

飲めない、んだね。


真っ赤な顔で
パパのお酌に応えてて。


ビール1杯くらいで
こんなんじゃ

営業のお仕事
大変だろうな。


「実は、あのとき
お嬢さんを
最初に見つけたのは
妹なんですよね」


ジュンニイの思わぬ証言に
箸が止まる。


「…ジュンジュンが?」


私は発見された後
1週間近く高熱にうなされ

そのときの記憶が
全くなかった。


「妹は僕と違って
自分の手柄を
吹聴してまわったり
しないれすから」


ジュンニイの呂律が
怪しくなってきたので

私はジュンジュンに
メールを入れる。


ジュンニイを迎えに来た
ジュンジュンが

「アニキ、飲みすぎ!」

足元のおぼつかない
ジュンニイに肩を貸した。


住宅街のイルミネーションが

透明な空気と3人を
暖かく照らし出している。


「パパ達も泊まってけって
言ってたんだけど」


「泊めて貰えばよかったのに」

ジュンジュンが
いたずらっぽく冷やかすと

「ンなことできるかにょ!
信用落とせりゅか」

ジュンニイの言語が
さらに怪しくなっていく。


ジュンジュンは
そんなジュンニイに
大ウケしまくってるけど。


「パパ達の前では
ちゃんとしてたんだよ」


緊張していたんだね。


「うっ」

ジュンニイが吐き気を訴え

膝から崩れるように
道端にしゃがみ込んだ。


「はいはい、水ね、水!」

ジュンジュンは自販機まで
元来た道を戻っていく。


ど、どうしよう。

こういうときは
気道確保だっけ?


あれ?
あれれ???

頭が軽いパニックだ。


ジュンジュ~ン。

なんでひとりに
するんだよ~~~!!!


「…ヒメ」


「な、何?
やばいの? やばいの?」

ジュンニイを覗き込んだら

キスされた…。


固まる私に
ジュンニイが白い歯を見せ
笑ってる。


あの…、もしかして。


「仮病?」

「らってイブの夜らもん」


そう言って
私の頬を両手で引き寄せ

今度は丁寧にキスをした。


私を抱きしめながら


「ホンロは
帰したくないけれろ」


カッコイイはずのセリフも

「呂律がまわってないよ」

そのセリフに振り返ると

ジュンジュンが背後で
仁王立ちしていて。


ジュンジュンてば

いつの間に
戻ってきてたんだ!


顔から火が出そう。


「アタマ、冷やそうね」

持っていたペットボトルの水を
ジュンニイの頭上に

ドボドボ、掛けて

「姑息な男よのお!」

ジュンジュンが高笑い。


「おっと、ご近所迷惑だった」
と自分にツッコミを入れ

ジュンニイを再び担ぎ上げた。


「はい! アニキ帰るよ!」


「あ、ジュンジュン、待って。
髪になんかついてる」


私はそれを指で摘み取る。


「セメント?、粘土?」


「あ、それ、信号待ちで
壁にもたれかかったときに
付いたんだワ」

じゃあね、と
先を急ごうとする
ジュンジュンに

「そうだ。あの
今更なんだけど!」

私は行方不明騒動のときの
お礼を伝えた。


ジュンジュンの動きが止まる。


「…思い出したんだ?」

「え?」


「あの日のコト」


「ううん。

ジュンニイに
教えてもらったんだ」


「そう。そっか」


「…ありがと、ね」

「うん」


どこか歯切れの悪い
会話だった。