2008/08/12

【小説】まあるい♪おしり 003

娘の人見知りは
少し変わっている。

 

赤ちゃんの頃は
私以外の全てのヒトに
人見知りしていたのだけれど

気がつくと

特定の特徴を
持ったヒトにだけ

激しいくらいの
人見知りを
みせるようになっていて。

 

特に
ハンサムな
若いおにいさんを見ると

思いっきり
人見知りする。

 

不用意に近づこうモノなら

まるでヒトさらいにでも
会ったかのように
大泣きするのも
しょっちゅうで。

 

ジュンニイなんか

「父親の俺でさえ

長期出張から帰ると
必ず人見知りされる…」

ちょっと複雑な
気分らしい。

 

私のパパや
ジュンニイのお義父さんには
全く人見知りしないし

ユッキの彼氏の
コージさんなんか

ジュンニイより
ずっと若いのに

人見知りするコトはない。

 

「ユッキには言えないよね」

 

「この子ってさ。

ホント、好みが
マニアックだから」

ジュンジュンが笑う。

 

虫とかうんことかも
好きだしねって
喉まで出かかった。

 

「動物もかわいい
柴犬なんかには
興味を示さないのに」

 

パグやらブルドックみたく
ぶちゃかわいいのを見ると

自分から寄って行く。

 

「将来、ブルドックみたいな
彼氏を連れてきたら
ど~する~?」

ジュンジュンは楽しそうだ。

 

「…姿は野獣でも
中身が子犬なら…」

 

やっぱりオトコは
見た目より中身だよね。

 

「子犬みたいに
きゃんきゃん吠えてる
弱虫なオトコ???」

 

「違うよ!
やさしくって
あたたかくって

かわいいトコロが
あるってコト!!」

 

「アニキみたいに
尻に敷きやすそうな
オトコ???」

 

ジュンニイは確かに

やさしくって
あたたかくって

かわいいトコロが
あるけれど

「…私、尻になんか
敷いてないもん」

 

それにジュンニイは

普段はうんと
やさしいけれど

エッチのときは
ちょっぴり
サディスティックだ。

 

「……」

って。

 

昨夜のジュンニイとの
睦み合いを思い出して
ひとりで赤くなる。

 

「ヒメってさ。
面食いだったっけ?」

「は?」

 

「いや、だってさ。

ヒメって昔から
好きになる芸能人って

お笑いタレントとか

イマイチ容姿が
整ってないヒト
ばっかだったし」

 

「…お笑い芸人って
容姿で好きになったり
するようなモノなの?」

「お笑い芸人を
好きになる神経がわからん」

 

「……」

「……」

 

どうしてオトコの好みが
ここまで違うのに

同じオトコを
好きになったりして
しまったのか。

 

たぶん
私もジュンジュンも
同じコトを
考えていたと思う。

 

だけど

「理想通りのヒトを
好きになるとは限んないよね」

私のセリフに
ジュンジュンが苦笑する。

 

「ヒメの理想って?」

 

「そりゃ、やさしくって
あったかくって
かわいいトコロもあって…」

「で、尻にも敷けて、でしょ?

理想通りのオトコ
亭主にしてんじゃん~♪」

 

「……」

確かに。

そうなんだけど。

 

ジュンニイのコトを
好きになるのに
理由はいらなかった。

 

そこには
私が安らげる
私の理想が存在してて。

 

まさに理想のヒトと
理想の結婚生活を
送っている。

 

だけど。

私の中で『彼』は
あらゆる意味での

唯一無二の例外で。

 

理想をも凌駕してしまう
存在だった。

 

好みでも
タイプでもなかった。

 

なのに

猛烈に魅かれていた。

 

「ママッ。時間だぞッ」

娘がレッスンバッグを持って
私の周りをぐるぐると
回りだす。

 

「この子、時計とか
わかるようになったんだ」

ジュンジュンが
娘の成長に目を細める。

 

「でんでんは
時間にウルサイ
じいさんだからなッ」

 

「…カタツムリ先生だから
でんでん???」

ジュンジュンが
必死で笑いをこらえてる。

 

相変わらず
空気を読まない
娘だった。

 

「このレッスンバッグ
手作り?」

「そう。私のママのお手製」

 

「だから
ピンクのフリルつきなんだね」

 

「…そうなんだけど」

私はバッグの裏布を
ジュンジュンに見せる。

 

リリカルなバッグの内側は

リアルでグロテスクな
カタツムリのプリント地で。

 

「ママとしては凄い
妥協の産物だったみたい…」

 

娘の将来の伴侶の姿を
憂いつつ

そのしあわせを願う

うららかな午後だった。