2007/12/07

【小説】himegoto*
アプローチ

到着したのは
立派な日本家屋だった。
​
​
迎えの出てきたのは秘書さん。
​
​
私たちに着替えるよう
テキパキ指示して
​
早歩きしながら
ジュンニイと
打ち合わせを進めている。
​
​
ジュンニイ
真面目な顔も出来るんだ。
​
そんな顔してると
けっこうカッコイイのにね。
​
​
「きゃお~ん♪」
​
部屋から
ユッキのはずんだ声がする。
​
​
ジュンニイが3人に
見立ててくれたという
着物セット。
​
​
「ユッキはコレね」
​
​
ジュンジュンが指さしたのは
紫の着物に白銀の帯。
​
ユッキの個性がよく光る。
​
​
ジュンニイってばセンスいい。
​
​
ジュンジュンはオレンジ。
​
健康的で元気なジュンジュンに
ぴったりだ。
​
​
ふたりともすごく魅力的。
​
​
「ヒメはピンクね」
「……」
​
​
私に用意されていたのは
淡い桃色に金色の帯、と
清楚系セレクション。
​
​
「似合うと思うよ」
「そ、そうかなあ」
​
何か気恥ずかしいような。
​
​
ジュンニイって私のコト
こんなイメージで
見てるのかな。
​
​
袖を通してみた。
​
​
あれ?
​
意外と…。
​
​
「ピンク似合うじゃん」
​
ユッキが褒めてくれた。
​
​
「アニキってさ
ヒメの魅力引き出すの
巧いと思わない?」
​
​
自分でも知らない自分の魅力。
​
​
ちょっと照れるけど
​
正直、嬉しい。
​
​
『彼』が見たら
何て言うだろう。
​
​
「……」
​
バカなことを考えてしまった。
​
​
『彼』は私が
どんな服を着ようと
​
何も言わないに決まってる。
​
​
私に興味なんかナイのにね。
​
​
「ハハ…」
​
もう夏休みも
終わろうというのに
​
別れた今でも
​
私は彼への未練を
ひきずっていた。
​
​
外国からのお客さまを
もてなしに庭園に向かう。
​
​
5歳くらいの
オトコノコとオンナノコ。
​
金髪に青い瞳が
お人形さんのようだ。
​
​
七五三のようなカッコの
ユッキの彼氏は
子ども達に大人気だ。
​
​
こども達の早口英語は
聞き取りが難しいけど。
​
​
「スモウ・レスラー!」
​
この意味は
私にもすぐわかった。
​
​
たしかにユッキの彼氏に
ちょんまげをつけたら…。
​
​
ジュンジュンなんか
お腹をかかえて笑ってる。
​
​
「車の中では
真っ青な顔をしてたのに」
​
「お寿司食べたら
治ったんだって」
​
​
胃の中に何か入れたら
落ち着いたのだと言う。
​
​
「食いしんぼキャラ
だったんだね」
​
「そうみたい」
​
​
「そうみたいって。
知らなかったの?」
​
「うん」
​
​
「2年以上もつきあってて?」
​
「毎日が発見よ。
​
放って置いたら
何してるんだか」
​
​
「そんなモンなんだ…」
​
なんだかひどく安堵した。
​
​
『彼』との関係も
​
自分で思ってる程
酷いモノでは
なかったのかも…。
​
​
不誠実だった事実からは
逃れられないけど
​
それでも
救われる思いがする。
​
​
「俺の見立てに
間違いはなかった」
​
着物姿のジュンニイが
近寄ってきた。
​
​
「アニキこそ、なかなか
サマになってるじゃん」
​
「だろ、だろ、だろ?」
​
​
…黙っていれば
​
かなりいい線
いってるのになあ。
​
​
思わず苦笑、だ。
​
​
「ヒメちゃんには
こういう色目も似合う
と思ってたんだよね」
​
ジュンニイが
指で作ったフレームの中に
​
私の姿を入れている。
​
​
「……」
​
紺とか緑とか
茶色とかオレンジとか
生成りとか。
​
ナチュラルで素朴な色ばかり
好んで着てきたから
​
ちょっとテレる。
​
​
外国人のお客さまが
一緒に写真を撮りたい
と言い出したので
​
みんなが庭園の
松の木の前に集まった。
​
​
私の横にはジュンニイ。
​
​
ジュンニイは
何だかいいにおいがする。
​
​
コロン、かな。
​
オトナのオトコのヒト
なんだよね…。
​
​
「もっと真ん中に
寄ってくださ~い!」
​
​
カメラマンの
ジュンジュンの声に
​
ジュンニイの胸が
私の肩先にくっついた。
​
​
ジュンニイって
こんなに背が高かったっけ。
​
​
「ね、ね!
似合いだと思わない?」
​
​
写し終わったデジカメの画面を
チェックしていた
ジュンジュンが
​
ユッキに声を掛ける。
​
​
「ホントだあ。いいかもね!」
​
「ほら、ヒメも」
​
促され
私もデジカメを覗き込んだ。
​
​
「!?」
​
私とジュンニイの
ふたりが引き伸ばされて
​
ツーショットされている
!!!!!
​
​
「に、似合いって…」
​
思わず、顔が引きつった。
​
​
「アニキ、案外
カッコイイと思わない?」
​
​
返答にこまる質問だ。
​
​
親友の兄を悪くは言えない。
​
​
「私たち姉妹になるって
どうよ?」
​
ジュンジュンの提案に
​
隣でジュースを飲んでいた
ジュンニイが噴き出した。
​
​
「お、おまえ
何言ってんだ!!!」
​
ジュンニイが
思いっきり動揺している。
​
​
「ね? 一度
デートしてやってよ」
​
それはジュンジュンからの
意外なお願いだった。
​
​
ジュンジュンはそういうの
一番嫌いだったハズなのに。
​
​
「好きでもない相手と
つきあうのって…」
​
信じられないんじゃ
なかったの?
​
​
「……」
「……」
​
​
「ジュンニイのこと嫌い?」
​
​
「え、別に嫌いとか
そういうんではナイけれど」
​
​
「じゃ、ジュンニイにも
希望はあるね」
​
​
「俺の前で
何つー話をしとるんじゃ」
​
ジュンニイが
ジュンジュンの手を
引っ張っていこうとする。
​
​
「もっとアニキのコト
ヒメに知って貰いたいもん」
​
ジュンジュンが
ジュンニイの手を振り払った。
​
​
「デートくらい、いいじゃん」
​
ユッキが参入する。
​
​
「そうだよ。つきあっちゃえば?」
​
ユッキの彼氏が
無責任に同調した。
​
​
「Do it! Do it!」
外国人もノッテきて。
​
​
やばい。
​
私また流されそうだ。
​
​
「私、好きなヒトいるからッ!!!」
​
​
私の思わぬ激白に
​
会場中が静まり返る。
​
​
​
「誰…?」
​
​
「誰よ!?
そんなの聞いてない~!!」
​
ユッキが叫んだ。
​
​
「え、いえ、え~と」
​
『彼』の名前は
死んだって口に出来ない。
​
​
「え~と」
「江藤?」
​
「あ、の、ですね…」
「あのつくヒト?」
​
「……」
「……」
​
みんなの顔がマジだった。
​
​
「あ…、あ…」
​
「あさしょ~りゅ~…? とか」
​
​
私のジョークに
みんなの目がマジになる。
​
​
「OH!
スモウ・レスラー!!!」
​
外国人がはしゃぎ出し
​
「真面目に聞いてんのに!」
​
ジュンジュンが怒っていた。
​
​
でも。
だって、こんなの。
​
​
「ジュンニイだって
迷惑だよ!」
​
​
「別に俺
迷惑なんて思ってないけど」
​
​
え?
​
​
「よかったら
今度、大相撲観に行こう」