2007/12/26

【小説】himegoto*
忘れモノ

「ジュンイチくん
大丈夫だった?」
​
家に戻るとママが
ずっと付いて回ってきた。
​
​
ママの弾んだ声に
パパが咳払いして
牽制する。
​
​
私は自分の部屋に入って
ケータイを手にした。
​
​
「ジュンニイ
風邪ひかなきゃいいけど」
​
ハートいっぱい超特盛状態の
メールを送る。
​
​
明日起きてメール見たら
きっとジュンニイ
失神しちゃうね。
​
​
今日のキスを思い出して
今頃ドキドキしてきた。
​
​
『彼』との初めてのキスとは
全然違うんだ。
​
​
これが本当の恋人同士の
愛のあるキスなんだよね。
​
​
『彼』のキスは
本当に乱暴だった。
​
​
あの日、忘れモノを探しに
​
ひとりで
放課後の音楽室に行くと
​
ピアノの傍に『彼』がいた。
​
​
『彼』は私の音楽ノートを
パラパラとめくっていて
​
「それ、私の忘れモノ…」
​
声をかけたが返事はない。
​
​
『彼』とは
テレビ取材の一件以来
気まずかったから
​
少し警戒しながら近づいた。
​
​
「返して…」
​
私が手を伸ばすと
​
ノートを後ろに投げられる。
​
​
拾いに行こうとする
私の手を掴んで
​
抱き寄せて
​
私の唇を強引に奪った。
​
​
そのまま
私をオルガン机の上に
組み敷くと
​
「謝って欲しいとは
思わないけど」
​
私の髪に指を差し入れる。
​
​
テレビ取材で笑ったコト?
​
​
それを根に持って
こんなことを?
​
​
「小4の夏、8月10日」
​
え。
​
「君に初めて逢った日」
​
​
小4?
​
全然、記憶に残っていないけど
クラスメイトだったのかな。
​
​
『彼』が
自分の幼なじみだったコトを
​
私はこのとき初めて知った。
​
​
「…自慢じゃないけど
あんまり
物覚えがいい方じゃなくて」
​
​
「何があっても
サクッと忘れて
気持ちを切り替える。
​
キミらしいや」
​
​
小4だった私が
もしかして
​
この男子に何かしでかして
傷つけちゃった、とか?
​
​
何にせよ
​
今はそのときのコトを
冷静に思い出せるような
状況では
​
けっしてなかった。
​
​
視線を外してはいるものの
すぐ近くに『彼』の顔がある。
​
​
振り解こうと
両腕にチカラを入れると
​
「俺は、あの日の約束以来
​
6年もの間、ずっと
再会できる日がくるコトだけを
支えに暮らしてきたのに!」
​
『彼』の感情が
堰を切ったように溢れだした。
​
​
キツイ瞳が涙に濡れていて
​
これじゃ、まるで
私が加害者みたいだ。
​
​
「再会したときに
声をかけてくれれば
よかったのに…」
​
​
何で2年も経った
今ころになって?
​
​
アタマの中が整理できない。
​
​
「ヒメ~!」
​
「ノートみっかったかあ?」
​
​
廊下の向こうから
​
ユッキとジュンジュンの
声がした。
​
​
「ユッ…!」
​
声を上げようとする
私の口を手で塞いで
​
『彼』は私を
オルガン机の下に引き込むと
​
スカートのホックを
片手で外し
​
そのまま下着を
スカートごと
膝まで引きずり下ろす。
​
​
「お友達がこの姿をみたら
何て思うだろうね」
​
​
『彼』のセリフに
​
「……」
​
私は固まるしかなかった。
​
​
「ヒメ~!」
​
音楽室ドアが開く音がする。
​
​
「あれ? いないね」
​
​
『彼』は黙って
開いている指で
​
私のカラダを
触れるか触れないか
微妙なカンジで弄んでいる。
​
​
「ノートあったのかな?」
​
音楽室のドアのあたりで
話し込んでる私の親友達。
​
​
彼女達の話が
長引けば長引く程
​
『彼』の指のイタズラが
エスカレートしていく。
​
​
私のカラダに『彼』の指が
なじんでいくのがわかった。
​
​
鳥肌が立って
寒気がしているハズなのに。
​
​
「……」
​
アタマとカラダが
​
別物になっている。
​
​
この異常な状況が
私を狂わせているのか。
​
​
「ヒメに電話してみよっか」
​
ジュンジュンの声が
聞こえていたくせに
​
『彼』はそれでも
指を止めようとはしない。
​
​
大胆な『彼』
​
​
もし、ここで
こうしているコトが知れたら
​
私だけでなく『彼』だって
立場はないハズ。
​
​
何を考えているのか。
何も考えてはいないのか。
​
​
「あれ?、出ないよ」
​
「教室のカバンの中に
ケータイ入れっぱなしに
しちゃってるんじゃないの?」
​
ふたりの声が足音とともに
遠のいていった。
​
​
ふたりきり。
​
なのに、私は動けずにいた。
​
​
『彼』は手を止め
​
「何で固まっちゃってんの?」
​
私の口を塞いでいた手から
開放する。
​
​
「これ以上進んでもOK
だって
受け取っていいワケ?」
​
​
『彼』の言葉にハッとして
私は慌てて身を起こした。
​
​
スカートと下着を
引き上げる。
​
​
顔から火がでそうだ!
​
​
そんな私に背を向けて
​
『彼』は私の音楽ノートに
走り書きを残し
​
ドアの方へと歩いていった。
​
​
「今日のコトを
ふたりだけのヒメゴトに
しておくのかどうかは
​
そっちの心がけ次第だ」
​
​
「脅しているの?」
​
「さあね」
​
​
ドアを激しく閉める音が
私をシャットアウトする。
​
​
オルガン机の上に残された
ノートには
​
女体の落書きがひとつ。
​
​
ホテルのティーサロン名と
日時が指定してあった。